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ナノカーボンFAQ

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ナノカーボンFAQ

作成 2017.2.8

ナノ材料は安全な物質でしょうか (1)安全とは何でしょうか (2)ナノ材料のリスクをどう考えたら良いでしょうか

■回答

(1)「安全」とは何でしょうか。

ISO(国際標準化機構)では、2014年国際基本安全規格(ISO/IEC GUIDE51)において、安全の基本概念を明確化しています1)。具体的には「安全」を以下のように定義しています。

 安全(Safety) : 許容できない「リスク」が無いこと (freedom from risk which is not tolerable)
 それでは「リスク」をどう定義しているでしょうか。
 リスク(Risk):「危害」の発生確率及びその「危害」の程度の組み合わせ
 (combination of the probability of occurrence of harm and the severity of that harm)

また「危害」と「危険性」については以下のように定義しています。
 危害(Harm):人の受ける身体的傷害もしくは健康傷害,または財産もしくは環境の受ける害
 (injury or damage to the health of people, or damage to property or the environment)
 危険性(Hazard):危害の潜在的な原因(potential source of harm)

私たちはしばしば、安全を「絶対安全」と考えがちですが、ISOは「絶対安全は存在しない事」を明確に宣言しており、「許容可能なリスク」という概念を取り入れています。
つまり「危険性と利便性を考慮して許容可能と判断した場合、そのリスクを受け入れて、それを安全とみなす」事にしており、安全といってもリスクはゼロではなく、リスクが残っている事を理解する必要があります。
この事は身近な例で理解する事ができます。

例えば自動車はどうでしょうか。
日本では年間約4000人を超える人々が交通事故で亡くなっており2)、そこだけを捉えれば非常に危険性の高い機械(乗り物)です。しかし私たちは「自動車はその危険性より利便性の方が勝っている」とそのリスクを受け入れており、結果として我が国には7000万台以上の自動車が走っています。

また私達が日頃食べたり飲んだりしている身近な食品でも、過剰な摂取で死に至ります。
最近米国で示されたLD50(半数致死量)によれば、水は6リットル、塩は大さじ16杯、コーヒー120杯、チョコバー85本、アルコールは13ショットが致死量とあります3)
私たちは、コーヒーやチョコバー、アルコールはともかく、水や塩は人間には不可欠な(高い利便性、有用性がある)食物として積極的に摂取していますが、これらの身近な食物でも過剰摂取すれば危険性がある、と言う認識を持つ必要があります。


(2)ナノ材料のリスクをどう考えたら良いでしょうか。

ナノ材料の一例として、CNTの場合を考えてみましょう。
ISOの定義に従い「CNTの危険性と利便性を考慮して許容可能と判断した場合、そのリスクを受け入れて、それを安全とみなす」事を考える必要があります。

この事は言い方を変えると、
「CNTを安全とみなせるだけの『許容可能なリスク』を判断するために、危険性と利便性を把握する必要」
があります。

まずCNTの有害性(危険性)については、これまで世界各国で評価が進められていますが、なお未解明の部分が多く存在しています。特にナノサイズ(長さ、太さ)、状態(一本一本か、束構造か、凝集塊か)に、CNT特有の有害性があるのかについて、精力的に研究が進んでいます。
→例えばFAQ 「CNTの発がん性」を参照。

一方、利便性、有用性については、2000年代初頭より世界各国でCNT実用化開発が鋭意進められて来た結果、既に多くの商品が世に出ており、人々の暮らしに役に立っています。
→例えばFAQ「CNTの用途」を参照。

現時点ではCNTの有害性は定量化できていませんが、CNTの将来にわたる利便性を考えた時に、まずリスクを最小化しよう、というのが、CNTに対する現在の世界的なスタンス(姿勢)です。 このスタンスを「リスク管理」と言います。

ISOが定義する通り、リスクとは「危害の発生確率及びその危害の程度の組み合わせ」ですから、有害性の程度に関わらず、有害性に対するばく露(=CNTとの接触)を極小化する事で、リスク管理が可能となります。これを示したものが下図4)であり、リスクは以下の式で表現できます。


リスク(Risk) = 危険性(Hazard) × ばく露(=ナノ粒子とヒトとの接触、Exposure)

例えば、仮にCNTに固有の有害性があったとしても、その接触の可能性を小さくできれば、リスクは極小化され「許容可能なリスク」になる、すなわち「安全とみなす」事ができます。
接触の極小化の状態は「許容暴露濃度」という言葉で表現され、これまで世界各国の多くの研究機関がCNTについて、その数値を提案しています5)

現在、CNTを取り扱う研究機関、企業では、これらの許容暴露濃度を念頭に、「排出量を減らす」あるいは「ヒトへの接触を低減するための保護具着用」等、リスク管理を徹底する事で、CNTを安全に使用し、その利便性、有用性を更に高めるべく、研究開発、製品化を鋭意進めているところです。

なお、「安全とは何か」については優れた成書がありますので、参考にして下さい6)


■出典等

1)https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso-iec:guide:51:ed-3:v1:en:sec:3.14

2)https://www.npa.go.jp/pressrelease/2016/01/20160106_01.html

3)http://www.businessinsider.com/things-that-seem-harmless-that-can-kill-you-2015-4?op=1

4)経済産業省ナノテクノロジー政策委員会「社会影響WG成果報告(2009年)」

5)NBCI 「CNT(カーボンナノチューブ)発がん性にかかわるNBCI見解(2015年)」

6)「安全学」向殿政男(東洋経済新聞社2016年)